コラム
超硬合金の耐摩耗性とは?材種選定で確認したい硬度、靱性、摩耗形態
2026.09.30
「摩耗が早いなら、もっと硬い超硬合金に替えればよい」
この判断が合う場合もあるでしょう。しかし、工具や金型の寿命を決めているのが摩耗ではなく、刃先の欠けや相手材の凝着であれば、硬度を上げるだけでは状態が改善しません。
超硬合金の耐摩耗性は、一つの物性値で決まる性質ではないからです。硬度、靱性、炭化タングステン(WC)の粒径、結合相に加え、相手材、荷重、速度、温度、潤滑条件が重なって、実際の寿命が決まります。
この記事でわかること
- 超硬合金が耐摩耗用素材に使われる理由
- 硬度だけで材種を決められない理由
- 摩耗形態ごとに確認したい条件
- 材種選定前に共有したい使用情報
- トーカロイのAGSシリーズ、RAシリーズの位置づけ
超硬合金の耐摩耗性は硬度だけでは決まらない
超硬合金は、主に硬質なWC粒子と、それらを結びつける金属の結合相からなる複合材料です。高い硬度を持つため、工具、金型、ノズル、ガイドなど、寸法変化を抑えたい耐摩耗用途に使われます。一方、実機では削られて減る現象だけでなく、欠け、割れ、相手材の付着、腐食も寿命に影響するため、損傷の見分けが重要です。
硬さは摩耗を抑える重要な要素
硬い粒子が相手材の表面をこする状況では、材料の硬度が耐摩耗性に大きく関わります。超硬合金は接触面が塑性変形しにくく、表面を削り取られにくい材料です。鋼材から超硬合金へ変更すると、寸法を維持しやすくなります。
ただし、カタログにあるHRAやHVの値は、あくまで材種を比べるための目安です。同じ硬度であっても、WC粒径、結合相の組成、表面状態が違えば、実際の摩耗耐性は大きく変わります。
硬度を確認するときの要点は、測定方法と、その値が代表値か保証値かの2点です。必要な寿命を「ショット数」「加工長」「寸法変化量」のどれで判定するかを先に決めると、物性値と実機評価を結びつけやすくなります。
靱性が不足すると欠けが先に起こる
硬度を優先しすぎると、衝撃や偏荷重を受けたときに刃先や角部が欠け、摩耗量を測る前に寿命を迎える場合があります。このとき必要なのは、さらに硬い材種ではなく、荷重に耐える靱性や形状の見直しです。
超硬合金の材種表では、硬度とともに抗折力や破壊靱性値が示されることがあります。抗折力は曲げ荷重に対する強さを比べる指標、破壊靱性値は亀裂の進展に対する抵抗を比べる指標です。どちらも実際の工具寿命を単独で保証する値ではありませんが、欠けや割れが生じる条件で候補を絞る手掛かりになります。
摩耗痕の周辺に小さな欠けが連続しているなら、摩耗だけを対策しても寿命は延びにくいでしょう。クリアランス、荷重方向、角部の形状、固定方法も含め、材料以外の原因を同時に確かめる必要があります。
摩耗形態を観察して対策を分ける
「減っている」という結果が同じでも、表面で起きている現象は異なります。硬い粒子に削られる摩耗、相手材が付着して持ち去られる凝着摩耗、腐食を伴う損耗、衝撃によるチッピングのどれが起きているかによって、材種に求める性質は異なります。使用済み工具の摩耗位置と外観を残し、運転条件と照合することが材種選定の精度を上げます。
硬い粒子に削られる摩耗
粉体、スラリー、被加工材の硬い介在物が表面を引っかく条件では、擦過による摩耗が進みます。表面に一定方向の筋が残る場合は、粒子が流れた方向、粒径、濃度、速度を確認してください。
この条件では高硬度材が候補になりますが、粒子の衝突が強いと欠けも併発します。ノズルの入口や流路の曲がりで局所的に摩耗するなら、材種だけでなく、流れの向きや肉厚も寿命を左右する要素です。
さらに、摩耗粉が接触面から排出されず、工具と相手材の間を繰り返し通る場合もあります。清掃や潤滑の方法を含め、異物がどこから入り、どこへ抜けるかを確かめると、材料変更以外の対策も見つかるでしょう。
相手材が付着して起こる凝着摩耗
金型や摺動部では、相手材が超硬合金の表面へ付着し、その一部が移着と脱落を繰り返す場合があります。凝着が起きていると、表面に相手材の付着物が残り、擦り傷や焼き付きに似た状態が現れることもあるでしょう。
対策時の確認項目は、超硬合金の硬度だけでなく、相手材との親和性、結合相、表面粗さ、潤滑剤、接触温度です。表面を滑らかに仕上げても、使用中に相手材が付着しやすい組み合わせであれば、期待した寿命にならないことがあるためです。
トーカロイのRAシリーズは、結合相とWC粒子の構成を見直し、超硬合金と親和性の高い材料に対する耐凝着摩耗性の向上を狙った材種です。銅合金加工用金型など、凝着が課題となる用途の候補になります。
摩耗ではなく欠けが寿命を決める場合
現場では、工具が使えなくなったとき、原因を見分けずに「先が減った」「摩耗寿命が来た」と捉えることがあります。しかし、打ち抜き工具の刃先が局所的に欠ける、金型の角部から割れが進む、ノズル端面が衝撃で崩れるなどの損傷は、表面が均一に減る摩耗とは対策が異なります。
偏った当たり、過大なクリアランス、組み付けのずれ、急激な荷重は、一部へ応力を集中させます。材種の靱性を上げる方法に加え、角部のR、支持方法、加工精度、荷重の立ち上がりを見直す必要があります。
破損品を確認するときは、欠けた場所だけでなく、反対側の接触痕や固定部の傷も見ます。損傷が始まった位置と最終的に割れた位置が異なる場合があり、破片だけでは原因を取り違えるからです。
WC粒径と結合相が特性の組み合わせを変える
超硬合金の材種は、WC粒径と結合相の組成や量によって、硬度、強度、靱性、耐食性の組み合わせが変わります。「粒子が細かいほどよい」「結合相が少ないほど硬い」という一方向の選び方では、使用条件に必要な性質が抜け落ちます。候補材種を比べるときは、摩耗を抑えたい場所と、欠けを防ぎたい場所を先に分けることが基準です。
細粒化は刃立ち性と硬度を検討する手段
WC粒子を微細化した材種は、高い硬度や微細な刃先を得たい用途で候補になります。薄い金属箔やフィルムを切る刃物のように、シャープな刃先と良好な面粗さを求める場合には、粒径が選定軸の一つです。
ただし、微細化だけで衝撃への強さや凝着への抵抗まで決まるわけではありません。加工対象、刃先形状、コーティングの有無、再研削の条件を合わせて評価する必要があります。
トーカロイのAGSシリーズは、超々微粒子の構成により、高硬度、高強度、耐摩耗性、刃立ち性を求める用途へ対応するシリーズです。物性表には硬度、抗折力、破壊靱性値を掲載しており、用途条件と照らして候補を比較できます。
結合相は靱性と耐食性にも関わる
WC粒子をつなぐ結合相は、超硬合金の強度と靱性に関わります。結合相の量や組成を変えると、硬度だけでなく、衝撃への耐性、相手材との親和性、腐食環境での安定性も変わるためです。
水分や薬液がある環境では、摩耗と腐食が同時に進むことがあります。表面が腐食で弱くなり、その部分が接触で取り除かれると、乾燥状態の摩耗試験だけでは実機寿命を再現できません。使用する液体の成分、濃度、温度、洗浄方法まで共有することが必要です。
耐食性を優先した結合相が、すべての摩耗用途で最適とは限りません。硬度、靱性、耐食性のどこへ余裕を持たせるかは、寸法変化、面粗さの悪化、欠け、亀裂のうち、どの損傷を避けたいかで決まります。
使用条件から材種を選ぶ手順
材種選定は、硬度表の上位から選ぶ作業ではありません。現品の損傷を観察し、使用条件を記録し、候補材種と形状を決め、同じ寿命基準で評価する工程です。比較条件をそろえると、材料変更の効果と、運転条件の変化を分けて判断できます。
| 確認項目 | 共有したい内容 | 選定への影響 |
|---|---|---|
| 相手材 | 材質、硬度、表面処理、付着性 | 凝着、擦過、反応性の見立て |
| 荷重 | 平均荷重、ピーク荷重、衝撃、偏り | 硬度と靱性の配分 |
| 速度 | 摺動速度、ショット数、連続運転時間 | 発熱と摩耗速度の評価 |
| 環境 | 温度、液体、濃度、洗浄剤 | 耐食性と結合相の選択 |
| 潤滑 | 潤滑剤、供給方法、交換周期 | 凝着と摩擦の抑制 |
| 寿命基準 | 寸法変化、面粗さ、欠け、交換時期 | 評価項目と合否判定 |
使用済み品の観察から仮説を立てる
摩耗対策の相談では、新品図面だけでなく、使用済み品が有力な情報になります。摩耗の位置、方向、深さ、付着物、欠けの起点を確認できるためです。
可能であれば、正常に使えた品と短寿命だった品を並べ、使用条件の差も記録してください。材種、ロット、加工条件、相手材、潤滑の変更履歴があると、寿命が変わった時点を追いやすくなります。
損傷部を研磨や洗浄で消す前の写真も役立ちます。付着物や摩耗粉を除去したあとでは、凝着と擦過のどちらが先に起きたかを判断しにくくなる場合があるからです。
試作評価では合否条件を先にそろえる
候補材種を試すときは、従来材と同じ条件で、どの変化を測るかを決めます。寸法、面粗さ、刃先の欠け、加工品のばらつき、交換までのショット数など、用途に合う評価項目が必要です。
寿命が延びても、加工品の品質や設備負荷が悪化しては採用できません。工具の価格だけでなく、交換回数、停止時間、再研削、加工不良を含めて比較すると、材種変更の効果を判断しやすくなります。
一度の試作で差が小さい場合は、摩耗が現れるまでの途中経過も必要です。最終寿命だけでなく、摩耗の進む速さが変わった時点も、次の候補を絞る材料です。
トーカロイの材種で摩耗課題に対応する
当社では、20種類以上の材種から、用途と使用環境に応じた候補をご提案します。高硬度を優先する用途、凝着摩耗を抑えたい用途、靱性や耐食性との両立が必要な用途では、選定軸が異なるためです。材種だけでなく、特殊形状や最終製品に近いニアネット形状も含めてご相談いただけます。
高硬度と刃立ち性が必要な用途
AGSシリーズは、超々微粒子超硬合金として、高硬度、高強度、耐摩耗性を求める用途向けの材種です。金属箔やフィルムの切断など、高い刃立ち性と面粗さが必要な場合にも候補になります。
ただし、AGSシリーズの中にも物性の異なる材種があります。掲載値はあくまで代表値であり、実際の採用では荷重、形状、相手材、コーティングなどを合わせた確認が必要です。
詳しい物性と特徴は、AGSシリーズをご覧ください。
凝着摩耗が問題になる用途
RAシリーズは、超硬合金と親和性の高い材料との耐凝着摩耗性を高めるため、結合相と粗粒子WCを組み合わせた材種です。銅合金加工用金型など、相手材の付着が寿命へ影響する用途を想定しています。
表面が削られているように見えても、実際には相手材の付着と脱落が繰り返されている場合があります。現品に付着物が残っている、潤滑条件で寿命が大きく変わるという場合は、凝着摩耗の可能性を含めてご相談ください。
RAシリーズの物性と評価例は、RAシリーズのページをご覧ください。
摩耗の現物と使用条件を共有して相談する
超硬合金の耐摩耗性を引き出すには、硬度の高い材種を選ぶだけでは足りません。何が表面を傷め、どの損傷を寿命と判定するかをそろえることで、必要な硬度、靱性、粒径、結合相が見えてきます。
当社へご相談いただく際は、図面、現在の材種、相手材、荷重、速度、温度、潤滑条件、使用済み品の写真や現物をご用意ください。目標寿命と、現状で最初に起きる不具合も共有いただくと、材種と形状の候補を絞りやすくなります。
当社では、20種類以上の材種をそろえ、オーダーメイドにも対応しています。耐摩耗性、欠け、凝着、腐食のどこから見直すべきか迷っている段階でも、お問い合わせフォームからご相談ください。
