コラム

超硬合金は腐食する?原因と耐食材種を選ぶポイント

2026.09.30

「超硬合金は硬い材料だから、錆や腐食にも強いはずだ」

硬度と耐食性を同じ性質と考えると、工具や部品の表面に起きた変化を見誤りやすいでしょう。超硬合金は高硬度の材料ですが、使用する液体、温度、接触時間、材種によっては腐食するからです。

初期の腐食は、均一な寸法減少よりも、表面の肌荒れ、局所的な変色、小さな孔として現れる場合があります。摩耗や汚れに見える変化でも、結合相の溶出が進んでいれば、表面機能や強度に影響する可能性があるでしょう。

この記事でわかること

  • 超硬合金でも腐食する理由
  • 結合相の溶出で表面に起きる変化
  • 腐食を進める使用条件と保管条件
  • 摩耗と腐食を見分ける観察項目
  • トーカロイの耐食設計と相談時の共有情報

超硬合金でも腐食は起こる

一般的な超硬合金は、硬質な炭化タングステン(WC)粒子と、それらを結びつける金属の結合相からなる複合材料です。表面は一種類の物質だけでできているわけではなく、液体との電気化学的な反応も材種ごとに異なります。高い硬度は摩耗や変形への抵抗を考える指標ですが、薬液や水分への安定性を保証する値ではありません。

参考:日本タングステン株式会社「耐食性超硬合金の腐食メカニズムの研究と開発・実用化」(2020年10月)

結合相の溶出が表面状態を変える

腐食環境では、WC粒子より先に金属の結合相が溶出する場合があります。結合相が失われると、表面のWC粒子を支える部分が減り、粒子の脱落や表面の粗れにつながります。

このときの外観は、鋼の赤錆とは異なります。鏡面が曇る、光沢がなくなる、細かな孔が生じる、指で触れてもわからない粗さが増えるという変化も、腐食を疑う手掛かりです。

表面粗さが重要なシール部や摺動部では、寸法変化が許容範囲でも機能が低下することがあります。切断刃や金型では、結合相が失われた表面から微小な欠けが始まり、摩耗が急に進んだように見える場合もあるでしょう。

したがって、腐食の評価を重量減少や外形寸法だけで終えることはできません。表面粗さ、顕微鏡観察、付着物、使用後の液体も合わせて確認する必要があります。

腐食条件は液体名だけでは決まらない

「水に触れる」「酸性の液体を使う」という情報だけでは、腐食条件を再現できません。液体の成分と濃度、pH、温度、接触時間、流れ、溶存酸素、異物の混入によって、表面で起きる反応が変わります。同じ名称の洗浄液でも、希釈率や交換周期が違えば、実機への影響も異なります。

使用時だけでなく洗浄と保管も確認する

腐食が進むのは、設備が稼働している時間だけではありません。加工後に付着液が残る、洗浄後に水分が乾き切らない、湿度の高い場所で長く保管するという時間も、材料が液体や湿気に触れる工程です。

原因を調べるときは、製造時、使用時、洗浄時、停止時、保管時を分けた記録が必要です。使用液には問題がなくても、停止中に濃縮した残液や、洗浄剤の持ち込みが腐食条件を作る場合があるためです。

水溶性の加工液では、管理期間中に濃度やpH、混入物が変化することがあります。新品液の仕様だけで判断せず、使用中の液を採取した時点、温度、交換周期、補給方法まで確認してください。

洗浄後は、付着液を十分に除去し、材種と工程に合う方法で乾燥させます。ただし、洗浄剤を別のものへ変更するときは、その成分が超硬合金や周辺部品へ与える影響を事前に評価することが必要です。

異種金属との接触も確認する

超硬合金部品が単独で液体に触れる場合と、鋼材やステンレス鋼など別の金属と接触した状態で液体に触れる場合では、腐食挙動が変わることがあります。異なる材料の間に電位差があり、電解質となる液体が存在すると、異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が問題になる場合があるからです。

耐食性超硬合金の研究では、WC-Ni-Cr系超硬合金をポンプ部材へ用いる際、海水中のNaCl濃度と、鉄鋼材料との接触による腐食挙動が検討されています。この知見からも、超硬合金の材種だけでなく、接触する部品、締結方法、液体の導電性を確認する必要があります。

異種金属接触がある場合は、組み合わせた状態での試験が必要です。

腐食と摩耗を現物から見分ける

使用後の部品が粗れていても、摩耗と腐食のどちらか一方だけが原因とは限りません。腐食で結合相が弱くなった表面を接触が取り除く場合や、摩耗で新しい表面が露出して腐食が進む場合もあります。損傷の位置、方向、深さ、付着物を観察し、使用履歴と対応づけることが必要です。

洗浄や研磨の前に外観を残す

原因調査を始める前に、使用済み品を強く洗浄したり、表面を研磨したりすると、手掛かりが失われます。付着物の色、残液、腐食生成物、摩耗筋の方向を、全体写真と拡大写真で記録してください。

正常品と短寿命品を同じ角度、同じ照明で撮影した写真が、外観差の比較に役立ちます。使用時間、液体のロット、洗浄条件、保管日数、組み付け位置も並べると、差が生じた工程を追いやすくなるでしょう。

表面に付着していた液体や粉末を採取できる場合は、採取位置と時刻を記録してください。乾燥や混合で状態が変わるため、保存方法は分析方法に合わせることが重要です。

表面粗れ、孔、摩耗筋、欠けを分ける

腐食を疑う外観には、広い範囲の光沢低下、局所的な孔、結合相が抜けたような粗れがあります。一方、硬い粒子に削られた場合は一定方向の筋、凝着摩耗では相手材の付着、衝撃による損傷では角部の欠けが見られることがあります。

実際には複数の特徴が重なるため、外観だけでは断定できません。顕微鏡観察、表面粗さ、成分分析、重量変化など、必要な評価を組み合わせます。

シール面では、面質の変化が漏れや摩擦へ影響する可能性があります。金型では、腐食で生じた微小な凹凸が被加工材への転写や凝着の起点になる場合があり、寸法以外の合否基準も必要です。

腐食を抑える4つの対策

腐食対策は、耐食材種へ変更するだけではありません。液体の管理、使用後の洗浄と乾燥、保管環境、異種金属との接触を合わせて見直すと、腐食条件そのものを減らせます。どこで反応が進んでいるかによって、優先する対策が変わるでしょう。

対策確認する内容注意点
材種選定結合相、耐食性、硬度、靱性耐食性だけで機械特性を決めない
液体管理成分、濃度、pH、温度、交換周期新品液と使用中の液を分けて評価する
洗浄と保管残液、洗浄剤、乾燥、湿度、保管時間洗浄剤の変更も適合性を確認する
組み合わせ設計接触金属、締結、絶縁、液体の導電性組み付け状態での異種金属接触腐食を確認する

対策前後を同じ条件で比較する

腐食対策の効果を確かめるときは、変更前と変更後で試験条件をそろえます。試験片の表面仕上げ、液量、温度、浸漬時間、液の交換、洗浄と乾燥の方法が違えば、材種差と試験差を分けられません。

評価項目は、外観、重量変化、表面粗さ、孔の深さ、成分の溶出、機械特性などから、用途に合わせて選びます。シール面なら面質、金型なら加工品への転写、摺動部なら摩擦や漏れというように、実機の機能と対応する指標が必要です。

加速試験で差が出たあとも、実機条件での確認が必要です。強い薬液や高い温度によって、現場では起きない反応を強調する場合があるためです。加速試験は候補を絞る手段、実機評価は採否を決める手段として役割を分けます。

耐食材種は使用液と機械特性を合わせて選ぶ

結合相をCo系からNi系へ変えたり、Crを加えたりすることで耐食性を高めた超硬合金があります。ただし、組成を変えると硬度、抗折力、破壊靱性値などの組み合わせも変わるため、耐食性だけを比較して材種を決めることはできません。

腐食しないことを目標にするのか、許容期間内の腐食減量や表面粗さを基準にするのかという合否条件も必要です。相手材と接触する部品では、摩耗、凝着、衝撃への強さも同時に必要だからです。

候補材種を比較するときは、実際の液体に近い組成、温度、接触時間を使います。加速試験を行う場合も、実機と異なる反応だけを強めていないかを確認し、試験結果と現場寿命の対応関係を確かめることが大切です。

液体を取り除く工程まで設計する

設備停止後に付着液が残るなら、材種変更の前に排液と乾燥の工程を見直せる場合があります。液体がたまりやすいくぼみ、分解しないと乾かない接触面、洗浄剤が残るねじ部は、停止中の接触時間を延ばします。

排液方向、エアブローの届き方、拭き取り手順、保管容器を確認してください。防錆剤や保護油を使う場合は、その成分が次工程、加工品、超硬合金に適合するかを事前に評価してください。

対策後は、液体の管理値と部品の外観を同じ周期で記録してください。腐食の兆候が現れる時点をつかめると、交換や洗浄の周期を決めやすくなるためです。

トーカロイの耐食設計

当社では、原料の配合と結合相を強化した設計により、超硬合金表面の腐食、それに伴う肌荒れや面質劣化を抑える技術を磨いてきました。結合相のイオン化を抑えるという考え方で、腐食環境に合わせた材料設計を行います。耐食性だけでなく、硬度、靱性、耐摩耗性を含めて用途に合う材種を選ぶことが前提です。

結合相のイオン化を抑える

結合相の溶出は、肌荒れや面質劣化の原因になります。当社は、原料配合のノウハウと、材種の結合相を強化した設計により、結合相のイオン化を抑える材料を検討します。

耐食性の比較では、サンプルピースを10%硝酸に浸し、50℃で24時間静置する加速試験も行っています。この条件は実際のすべての使用環境を再現するものではなく、一定条件で材種差を比べるための評価です。

耐食設計と評価例は、技術力ページもあわせてご覧ください。

トーカロイの「技術力」

耐食性と機械特性を同時に選ぶ

腐食環境で使う工具や部品にも、荷重と摩擦が加わります。耐食性が高くても、刃先が欠ける、摺動面が摩耗する、必要な圧縮強さを満たさない状態は、寿命目標へ届かない原因です。

当社の超硬合金には20種類以上の材種があり、用途と環境に合わせた材種選定をご相談いただけます。使用液、機械負荷、必要な面質、形状、数量が、耐食性と機械特性の配分を決める基準です。

特殊形状や最終製品に近いニアネット形状にも対応しています。腐食が局所的に起きている場合は、液がたまる形状や異種金属との接触も含め、材料と形状をあわせて検討できます。

腐食環境を共有して材種を相談する

超硬合金の腐食対策では、「水に触れる」「酸性で使う」という情報だけでは条件が足りません。液体の名称と成分、濃度、pH、温度、接触時間、流れ、洗浄方法、保管方法、接触する金属を共有することで、候補材種と評価条件を絞れます。

ご相談の際は、図面、現在の材種、使用済み品の写真または現物、腐食が現れるまでの時間もご用意ください。正常品と短寿命品がある場合は、液体や運転条件の違いも手掛かりになります。

将来、液体の濃度や温度、処理量を変更する計画がある場合は、その範囲もお知らせください。現在条件だけで材種を選ぶより、想定する上限と下限を含めて評価したほうが、条件変更後の再選定を防ぎやすくなります。

当社では、20種類以上の材種をそろえ、オーダーメイドにも対応しています。腐食、摩耗、欠けのどれが最初に起きているかわからない段階でも、お問い合わせフォームからご相談ください。

表面の小さな曇りや粗さは、使用条件と材種の組み合わせを見直す合図です。洗浄で消してしまう前に現物を残し、液体と時間の記録をそろえることが、耐食材種を選ぶ最初の工程になります。