コラム
超硬合金の加工方法とは?ニアネット成形と工程の考え方
2026.09.25
この記事でわかること
- 超硬合金の加工方法を焼結前後で分けて考える理由
- トーカロイの製造フローに沿った加工工程
- ニアネット成形が特殊形状に向いている理由
- 本焼結後の硬さ、HIP処理、出荷前検査の見方
- 加工相談前に整理したい材種、形状、使用条件
超硬合金の加工は、単に「どの工具で削るか」だけでなく、「どの製造段階で形を作るか」が仕上がりを大きく左右します。本焼結後に加工しようとすると、硬度の高さから負荷や欠けのリスクが高まるため、製造フロー全体を見据えた工程設計が欠かせません。
本記事では、トーカロイの製造フローをもとに、理想の形状を実現するための「ニアネット成形」と、焼結前後の加工戦略について詳しく解説します。
超硬合金の加工方法は焼結前後で考え方が変わる
超硬合金の加工では、「どの工具で削るか」だけでなく「どの段階で形を作るか」がカギになります。鉄やステンレスのように、完成後に大きく削って形を整える発想だけでは、超硬合金の特徴に合わない場面が出てきます。
完成後に削るだけでは考えにくい素材
超硬合金は、炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)を主な原料とし、粉末を固めて焼結することで硬さを得る素材です。トーカロイでは、製品の用途に応じて副炭化物が添加される場合もあります。
本焼結後の超硬合金は非常に硬く、焼結後の加工は難しくなります。細穴、ネジレ、偏芯、長尺など、形状が複雑な素材ほど、完成後にすべてを削って整えるのではなく、焼結前の段階で最終形状に近づける考え方が必要です。
研削加工や放電加工は完成後加工の選択肢になる
研削加工や放電加工は、硬くなった材料の寸法調整や表面状態の調整で検討される加工方法です。研削ではダイヤモンド砥石などで少しずつ削り、放電加工では導電性を持つ材料に電気的なエネルギーを使って形状を作ります。
ただし、細穴、ネジレ、偏芯、段付きなどの形状を完成後加工だけで作ろうとすると、加工負荷や欠けのリスクが大きくなります。そのため、必要な加工取り代を見込んだうえで、予備焼結後の段階から形を作る発想が欠かせません。
加工しやすい段階で形状を作り込む発想
トーカロイの超硬合金製造では、プレス成形・予備焼結の後に、製品形状に加工(ニアネット成形)してから本焼結へ進みます。予備焼結後の段階で形状を作り込むことで、本焼結後の硬さを前提にした無理な加工を減らしやすくなります。
この考え方は、単に加工時間を短くするためだけではありません。収縮率、寸法、加工取り代、欠けやすい部位を見ながら、材料と形状を合わせて設計するための工程です。
トーカロイの超硬合金加工は製造フローの中で進む
超硬合金の加工方法は、単独の加工機だけで決まるものではありません。トーカロイでは、原材料の配合、粉末処理、ロット検査、予備焼結、製品形状への加工、本焼結、検査までを一連の流れとして管理します。
原材料の配合からロット検査まで
最初に、原材料を配合して混合します。主な原料は炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)で、用途に応じて副炭化物が加わる場合があります。混合された粉末は、パラフィン混合、乾燥、篩分けを経て、成形しやすい材料粉末になります。
その後、篩分けした材料粉末からテストピースを製作し、硬度、強度、組織などをロットごとに確認します。材料粉末が次工程へ進む前に、品質を確認する工程です。
プレス成形・予備焼結で加工しやすい硬さへ近づける
材料粉末は型に詰めてプレス成形します。その後、潤滑剤として添加したパラフィンを除去し、後工程で成形加工しやすい状態にするため、500~800℃の温度帯で予備焼結を行います。
予備焼結の目的は、まだ最終的な硬さにすることではありません。後工程の加工を行いやすい、チョーク程度の硬さにすること。ここで加工しやすい状態を作っておくことで、次の製品形状への加工につなげます。
収縮率を見て製品形状へ加工する
超硬合金は、本焼結の過程で体積が約50%、線収縮で約20%収縮します。そのため、予備焼結後の圧粉体ブロックを調査し、ロット検査結果や実績データをもとに収縮率を算出します。
製品形状への加工では、この収縮率と本焼結後の加工取り代を考慮します。お客さまの希望する形状や寸法に近づけながら、最終的な製品サイズを見込んで加工する工程です。詳しい流れは「超硬合金の対応製品」でも確認できます。
ニアネット成形とは
ニアネット成形は、最終製品形状に近い形まで加工してから本焼結へ進める考え方です。超硬合金は本焼結後に非常に硬くなるため、焼結前に形状を作り込むことが、加工方法を考えるうえでのカギになります。
本焼結前に最終形状へ近づける
トーカロイでは、緻密に計算した収縮率と本焼結後の加工取り代を考慮し、お客さまの希望に応じた製品の形状、寸法に加工します。本焼結後に大きく削るのではなく、最終形状に近い形まで作り込むことが中心です。
この工程により、特殊形状や寸法管理が必要な素材でも、焼結後の難しい加工だけに頼らない設計がしやすくなります。
細穴加工やネジレ加工素材にも関わる
ニアネット成形の考え方は、細穴加工、ネジレ加工素材、多段偏芯シャンク用素材、長尺素材、特殊サンプルなどでも欠かせません。形状が複雑になるほど、どの段階で穴、ねじれ、偏芯、段付き形状を作るかが仕上がりに直結します。
本焼結後は硬さと品質確認がカギになる
予備焼結後の加工で形状を作り込んだ後、製品は本焼結へ進みます。本焼結後は超硬合金としての硬さに達するため、加工方法の主役は大きな切削ではなく、状態確認、必要に応じたHIP処理、出荷前検査へ移ります。
本焼結で超硬合金としての硬さに達する
トーカロイの製造フローでは、形状加工が施された製品を1300~1500℃で本焼結します。本焼結に伴って緻密化が進み、収縮が起こることで、求められる製品サイズへ近づきます。
本焼結を行うことで、超硬合金としての硬さに達します。材種やサイズによって処理温度や処理時間を適正化するため、加工方法は材種、形状、寸法と切り離して考えにくい工程です。
HIP処理や出荷前検査で状態を確認する
本焼結が完了した製品は、焼肌不具合や欠けなどがないかを目視で確認します。材種や用途によっては、本焼結後にHIP処理を実施する場合があります。
最終段階では、外観、形状、数量などがお客さまのオーダー通りになっているかを認定検査員が確認します。素材のみのご相談でも、HIP処理後の確認や出荷前検査まで含めて、工程全体で品質を見る姿勢が欠かせません。
超硬合金の加工方法を選ぶときに見る特性
超硬合金の加工方法は、形状だけでなく材種の特性にも左右されます。硬さが高いほどよい、加工しやすい、という単純な判断ではなく、強度、熱、変形しにくさ、欠けにくさまで合わせて見る必要があります。
硬さだけで加工性を判断しない
トーカロイの材種一覧表では、硬さをロックウェルA硬さ(HRA)とビッカース硬さ(Hv)で確認できます。ただし、硬さだけを見て加工方法を決めると、欠けや割れのリスクを見落とすことがあります。
加工時に衝撃や曲げがかかる場合は、抗折力や破壊靭性値も確認対象です。圧縮方向の力を受ける部品では、圧縮強さも見ます。材種一覧表の詳細は、関連資料で確認できます。
熱や寸法変化も加工方法に関わる
加工や使用時に熱がかかる条件では、高温硬さ、熱伝導率、熱膨張係数も判断材料になります。熱がこもる、寸法が変わる、角部が欠けるといった課題は、加工方法だけでなく材種選定にも関わります。
長尺素材や多段偏芯シャンク用素材では、縦弾性係数も確認したい項目です。値が大きいほど変形しにくい材料として見られるため、長い形状や偏芯形状では、寸法の安定性を考える手がかりになります。
特殊形状の超硬合金加工で相談前に整理したい条件
超硬合金の加工方法を相談するときは、図面だけでなく、使用条件も合わせて共有すると検討しやすくなります。材種、形状、加工段階、検査条件がつながっているためです。
用途・相手材・荷重をそろえる
まず整理したいのは、どの用途で、何と接触し、どのような荷重や温度がかかるかです。摩耗を抑えたいのか、割れや欠けを避けたいのか、寸法を安定させたいのかによって、見るべき材種特性と加工の考え方が変わります。
たとえば摩耗が課題なら硬さや耐摩耗性、衝撃が課題なら破壊靭性値や抗折力、熱が課題なら高温硬さや熱伝導率を確認します。加工方法の相談は、現場で起きている課題を言語化する段階から始まります。
形状と検査条件を早い段階で共有する
細穴、ネジレ、偏芯、段付き、長尺などの形状は、どの段階で作り込むかが仕上がりを左右します。最終寸法、公差、数量、外観条件、欠けを避けたい部位、検査で重視したい点を早い段階で共有すると、材料と形状をあわせて検討しやすくなります。
図面上では同じように見える形でも、荷重の向きや接触する相手材が変わると、加工時に注意すべき部位は変わります。現行品で起きている摩耗、割れ、寸法ズレを共有しておくと、材種と形状の見直しにつなげやすくなります。
トーカロイでは、材質の配合から形状までオーダーメイドでご提案しています。CAEを活用し、使用環境や使用条件を踏まえて不安要素を確認することもできます。詳しくは関連ページをご覧ください。
超硬合金の加工方法は材種と形状をあわせて相談する
超硬合金の加工方法は、研削や放電などの加工名だけで決まるものではありません。トーカロイでは、材種、形状、収縮率、ニアネット成形、本焼結、HIP処理、検査までを一連の工程として考えます。
20種類以上の材種から用途に合わせて考える
超硬合金素材ブランド「TOKALOY(トーカロイ)」は、20種類以上の材種ラインナップを取り揃えています。用途や環境に合わせた材種選定のご相談、特殊形状や一本の注文にもオーダーメイドで対応します。
加工方法を考えるときは、課題、使用条件、必要な寸法、製造工程を総合的に考えます。素材から作れることは、加工方法の選択肢を広げるうえでも大切な要素です。
CAEや原因調査で加工前の不安を減らす
変形、割れ、摩耗による耐久性、特殊形状の金型部品などでは、加工前に不安要素を確認することが欠かせません。トーカロイでは、CAEで応力や摩耗の状態を見える化し、材料や形状の提案につなげます。
超硬合金の加工方法で迷ったときは、完成後にどう削るかだけでなく、どの段階で形を作るか、どの材種が合うか、どこを検査すべきかまで合わせて考えることが近道です。
