コラム

タングステンの高騰で製造現場に何が起きているのか

2026.09.01

この記事でわかること

  • タングステンの高騰が起きている理由
  • 中国の輸出管理で調達が読みにくくなっている背景
  • 自動車、金属加工、半導体、防衛で需要が重なる構図
  • 代替材だけでは解決しにくい理由
  • 超硬合金素材を見直すときの考え方

「タングステンが高い」というニュースを見ても、自社の加工や調達にどう関係するのか、すぐには見えにくいものです。しかし、超硬合金素材や切削工具、金型、耐摩耗部品を使う現場では、タングステンの高騰は価格だけでなく、納期や仕様変更にも関わる問題です。

今起きているのは、単なる相場上昇ではありません。中国の輸出管理、供給の偏り、防衛需要、自動車や金属加工、半導体関連の需要が重なり、限られた原料を複数の産業が取り合う状況になっています。

参考:Reuters「Tungsten breaks records as China export curbs, military demand boost investment」(2026年4月29日)

タングステンの高騰を素材調達と製造計画の課題として捉えると、見直すべき点が明確になります。

タングステンの高騰はなぜ製造現場に響くのか

タングステンは、超硬合金の主原料である炭化タングステン(WC)につながる金属です。超硬合金は、切削工具、金型、耐摩耗部品など、硬さや摩耗への強さが必要な場面で使われます。そのため、タングステンの供給が揺れると、原料メーカーだけでなく、工具や金型を使う製造現場にも影響が出てくるでしょう。

価格より先に納期を見る

材料が高くなるだけなら、見積もりや価格改定で対応できる場合もあるでしょう。しかし、輸出許可や通関の遅れが絡むと、必要な材料が予定どおりに入るかどうかが問題になります。

調達担当者が先に見るべきなのは、単価だけではありません。供給ルート、納期、必要数量、在庫、代替案の有無までまとめて確認しておきましょう。価格が読めないことより、いつ入るかわからないことのほうが、製造計画にはずっと響くのではないでしょうか。

上流の遅れは素材や工具に遅れて出る

タングステンは、鉱石、精鉱、APT、酸化タングステン、炭化タングステン粉、超硬合金素材、工具・金型・耐摩耗部品という流れで下流へ進みます。上流で出荷や通関が止まると、その影響は時間差で粉末、素材、工具、金型の納期に出ます。

今すぐ手元の工具がなくならなくても、次の発注、試作、量産切替のタイミングで影響が出る可能性があります。次回の発注前に、供給状況と納期を確認しておきましょう。タングステンの高騰を「原料相場の話」で終わらせず、素材調達と製造計画の課題として捉えることが大切です。

中国の輸出管理で調達が読みにくくなっている

現在のタングステン問題を考えるうえで、中国の輸出管理の動向を押さえておく必要があるでしょう。中国はタングステンの生産や加工で大きな存在であるため、政策変更が国際価格や調達環境に影響します。

対象は鉱石だけではない

2025年2月、中国はタングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウム関連品目に対する輸出管理を発表しました。IEAの政策データベースでは、タングステン関連の対象として、APT、酸化タングステン、炭化タングステン、特定のタングステン合金、関連する製造技術や材料が挙げられています。

参考:IEA「Decision to implement export controls on tungsten, tellurium, bismuth, molybdenum and indium related items」(2025年5月5日更新)

ここで大事なのは、鉱石だけが問題ではないことです。超硬合金に近い中間材や粉末に関わる品目も対象に含まれるため、素材メーカーや工具メーカーの調達にも影響するでしょう。輸出許可制になると、申請、審査、通関に時間がかかり、納期を読みづらくなるはずです。

中国への偏りが価格と納期に効いてくる

USGS(米国地質調査所)の「Mineral Commodity Summaries 2026」では、2025年に中国が一部タングステン品目へ新たな輸出管理を実施し、その結果として価格が大きく上昇したと記載されています。同資料はロッテルダム価格について、65%精鉱が1MTUあたり266米ドルから551米ドルへ、APTが331米ドルから675米ドルへ上昇したと記載しています。

同じUSGSの資料では、2025年の世界タングステンの鉱山総生産量は85,000トンで、そのうち中国が67,000トンを占めると推定しています。中国以外に資源が世界各地に埋蔵されているとしても、生産や加工が中国に偏ると、その政策変更の影響がダイレクトに反映されるでしょう。

参考:USGS「Mineral Commodity Summaries 2026: Tungsten」(2026年2月、2026年4月改訂)

確認項目何が起きているか現場で見るべきこと
輸出管理中国がタングステン関連品目を管理対象に追加許可・通関・納期の遅れ
価格精鉱やAPT価格が大きく上昇粉末や素材価格への波及
生産量中国への生産偏在が大きい代替調達先をすぐ確保できるか

備蓄やリサイクルとあわせて自社でも備える

日本では、タングステンを含むレアメタルについて、短期的な供給障害に備えるための国家備蓄が行われています。また、供給源の多角化、代替材料、省資源化、リサイクルに関する取り組みも進められています。

国の施策を確認するだけでなく、調達先、納期、在庫、使用量、代替案を自社でも整理し、供給制約が続く場合に備えておきましょう。

参考:資源エネルギー庁「私たちの生活を守る『鉱物資源政策』

タングステン原料の取り合いが起きる背景

タングステンは、ひとつの業界だけが使う材料ではありません。金属加工、自動車、半導体、防衛、鉱山、エネルギーなど、用途の違う産業が同じ上流資源に接続しています。したがって、価格が上がるだけでなく、原料の取り合いが起きやすくなります。

自動車や金属加工は工具と金型で影響を受ける

自動車や金属加工の現場では、切削工具、金型、治具、耐摩耗部品を通じて、以前から超硬合金を使ってきました。タングステンの影響は、材料そのものだけでなく、工具寿命、金型寿命、加工能率、交換頻度として表れてきます。見落とさないようにしましょう。

USGSは、米国で消費されるタングステンの推定60%が、切削・耐摩耗用途の超硬部品に使われているとしています。摩耗に強い材料が必要な分野では、タングステン不足が生産性に直結するのではないでしょうか。

半導体は別の入口から同じ資源にぶつかる

半導体関連では、タングステンは薄膜、配線、コンタクト用途など、製造プロセス内の材料として使われています。用途は異なりますが、超硬合金と同じ上流資源に接続しています。

半導体で使うタングステンと、超硬合金で使う炭化タングステンは、製品形態も用途も違います。それでも、タングステンなどの上流資源や中間原料が限られると、超硬合金を使う産業や半導体関連産業など別々に見えていた業界が、同じ供給制約に向き合うことになります。

半導体関連で新たにタングステン材料を使う企業ほど、この上流リスクを見落としやすくなります。材料そのものを直接買っていなくても、装置、治具、工具、消耗部材を通じて影響を受けることがあります。自社のサプライチェーンを一度確認してみてはいかがでしょうか。

防衛需要は価格より確保を優先しやすい

タングステンは高密度、高融点、耐摩耗性が求められる用途でも使われます。2026年に入ってからも、中国の輸出管理と軍需の強まりを背景に、APT価格は高い水準で推移しています。

防衛・航空宇宙分野では、価格よりも調達確保が優先されやすくなります。民生向けの自動車、工具、半導体関連企業は、購買力や優先順位の違う相手と同じ原料を取り合うことになるでしょう。

代替材だけでは解決しにくい

タングステンが高騰すると、別の材料に置き換えられないかという話になります。しかし、超硬合金では材料を替えても、同じ性能になるとは限りません。

完全な置き換えではなく、使用量を減らす検討になる

USGSは、炭化タングステン系の超硬合金に対する代替候補として、モリブデン、ニオブ、チタン系の炭化物、セラミックス、サーメット、工具鋼などを挙げています。しかし、炭化タングステンを完全にそれらの素材と入れ替えてしまうと性能の維持ができません。そのため、タングステンの使用量を減らし、入れ替え候補の素材を増やして対応することが主流の検討方法になるでしょう。

材料を替えると、硬度、耐摩耗性、靭性、耐食性、寸法安定性が変わります。価格だけで判断すると、工具寿命が短くなり、交換回数や不良率が増えてしまうものです。

材種変更は評価とセットで進める

材種変更では、現在の摩耗、欠け、腐食、面粗さを確認してみてください。形状変更では、不要な余肉や加工取り代を見直します。代替材の検討では、対象材、荷重、温度、摺動条件に合うかを確認し、試作、評価、量産切替の時期まで含めて判断します。

価格が上がっているときほど、安い材料に替えるより、必要性能を守ったまま材料使用量や加工量を減らせるかを先に検討してみてください。

超硬合金素材で見直すこと

タングステンが高騰している局面では、超硬合金素材の材種、形状、加工取り代、品質確認をまとめて見直してみましょう。材料費だけを下げようとすると、摩耗寿命や加工安定性を落とすことがあります。

用途から材種を決める

超硬合金の材種は、硬ければよいわけではありません。対象材、荷重、摩耗の種類、衝撃の有無、必要寿命によって向き不向きが変わります。価格が上がっている時期ほど、用途に対して性能が過剰になっていないか、逆に必要性能を落としていないかを確認してみてください。

従来材種を続けるのか、別材種を試すのか、形状を変えるのか。どれかひとつではなく、用途と使用条件を見ながら同時に考えてみましょう。

形状と加工取り代を見直す

超硬合金素材では、最終形状に近い状態まで素材を作る考え方がカギになってきます。焼結後の加工量や材料ロスを抑えられると、材料費と加工費の両方を見直しやすくなるでしょう。

タングステン価格が高い局面では、図面上の余肉、加工取り代、必要数量、試作条件を見直す意味が大きくなります。材料使用量をむやみに増やさず、必要性能を満たす範囲で無駄を減らすことが、現実的なコスト対策になります。

品質確認は削らない

原材料が高騰すると、検査や品質確認を簡略化したくなる場面があります。しかし、超硬合金では原料の配合、炭素量、焼結条件、組織の状態が性能に直結します。品質確認を簡略化すると、摩耗、欠け、寸法不良、寿命低下を招きかねません。

価格が上がっている時期ほど、品質を落とさず、必要な性能を満たせるかを確かめてみてください。

非中国原料やリサイクル材を検討するときの考え方

中国への生産偏在が大きい状況では、供給源を分散するため、中国以外の原料やリサイクル材も選択肢になります。資源エネルギー庁は、タングステンをリサイクルを重点的に行うべき鉱種のひとつに挙げています。


ただし、原料の切り替えは調達先だけで判断できません。超硬合金素材に求める硬度、靱性、耐摩耗性などを整理し、候補材が必要性能を満たすかを評価したうえで、試作から量産へ進めることが大切です。


参考:資源エネルギー庁「世界の産業を支える鉱物資源について知ろう

相談前に整理したい情報

タングステンが高騰している局面では、相場の予測よりも、自社で守る条件を明確にすることが先です。調達部門だけでなく、設計、生産技術、現場の使用状況を合わせて確認しておきましょう。

価格、納期、寿命の優先順位を決める

現在使用している材種、寸法、数量、用途、対象材、荷重、摩耗や欠けなどの課題、希望寿命、図面、現物、希望納期、試作から量産までの予定を整理しておくと相談がぐっと進めやすくなるはずです。

特に、価格、納期、寿命のうち何を優先するかを先に決めておきましょう。価格を優先するのか、寿命を守るのか、納期を確保するのかで、選ぶべき材種や形状は変わります。

世界情勢を素材選定に落とし込む

タングステンの高騰は、世界情勢、資源政策、産業需要が重なった材料調達の課題です。自動車や金属加工のように以前から超硬合金を使ってきた分野だけでなく、半導体関連のように今後タングステンや超硬合金との接点が増える分野でも、上流の供給リスクを踏まえて素材を選ぶ必要があります。

タングステンの高騰を受けて、超硬合金素材の材種、形状、加工取り代を見直したい方は、用途・図面・現在の課題を添えてご相談ください。トーカロイでは、用途や環境に合わせた材種選定、特殊形状、一本からのオーダーメイドにも対応し、必要性能に合った超硬合金素材をご提案します。

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